歯科医院のホームページは今ではたくさんあります。その中で多くの歯科医院が、保険診療と自費診療を取り上げ説明していますが、ほとんどが「もの」の説明であり、患者さんに誤解を与えてしまっています。

例として、保険の詰めものはいくら、自費で金にするといくら、セラミックでかぶせるといくらといったたぐいの説明が多いと思います。歯科医院でそのような説明を聞いた方もたくさんいると思います。しかし、保険診療と自費診療の違いは確かに材料の違いもありますが、それは違いの一部でしかありません。

■健康保険制度の仕組みについて

ここで健康保険制度のしくみを簡単に説明します。現在の日本では「国民皆保険」と言って、原則として国民は何らかの健康保険に加入することになっています。

会社勤めの方が入っている健康保険組合や政府管掌保険、自営業の方が入っている国民健康保険などがあります。

毎月保険料を納入し、病気やけがの時には保険で治療が受けられるようになっています。ここで健康保険が火災保険や生命保険と根本的に違うのは患者さんが受け取るのはお金ではなく、「医療」という現物を受け取ることになっていることです。これを「現物給付」といいます。医師や歯科医師は、組合や市町村などに代わって「医療」を給付していることになります。「医療」という現物を給付するためにはその内容と料金を決めなければなりません。これを決めるのは厚生労働大臣です。医師や歯科医師が勝手に決めているわけではありません。このように決められた料金表の医療行為の内容が保険の治療として認められています。

このように健康保険制度には保険診療の「枠」が決められており、枠の中に入らない手術や技術、薬、材料などもたくさんあり、非常に制限のある診療になっています。

簡単にいえば、この枠の外にある診療が保険外診療、いわゆる自由診療といわれる医療行為になるわけです。結論から言えば、自由診療とは時間をかけ理想的な材料・薬剤で理想的な術式を以って行う治療、保険診療とは医療経済的に安価な材料・薬剤で病院が赤字にならない程度の保険点数でやれと国が医療者に押し付けている診療形態であると言えるでしょう。たとえて言えば銀座の一流と言われている寿司屋と一皿100円からの回転寿司は、寿司は寿司でも同じではないでしょう。どちらの寿司もとりあえずお腹がいっぱいにはなります。でも味やネタの品質、握るおやじさんの意気込みも違うでしょう。保険と自費の違いもこれと類似しています。だから、材料の違いのみで治療の質が伴わない自由診療は、自由診療とはいえません。