インプラント治療の成功率は90%以上というのは本当ですか?

よく診療室で患者さんから、「インプラントの成功率はどれくらいですか。」と聞かれます。多くの歯科医院では一般論の回答として「インプラント治療の成功率は術後10年で95%です。」と答えることが多いのではないでしょうか。これは一つの事実です。が、充分な回答ではありません。結論から言えば、『ある一定の条件をクリアしたうえで、インプラント治療の成功率は術後10年で95%になる。』といえるのです。

この回答には根拠があります。その根拠として引用されるのが、Adellらの論文(1990年)で、無歯顎(歯が1本もない人)へのインプラント治療の応用を語るとき、歴史的な臨床追跡研究とされているものです。これは、同じAdellらの1981年の追跡研究の続編であり我々臨床家への示唆に富む研究論文です。その結論には、無歯顎に関するインプラント治療は、15年間に及ぶ追跡研究により、上下顎を通じて成功率が高く、長期的に予知性の高い治療法であると唱えられていて、そのことがよく引用されています。

しかし、これはブローネマルクシステムと呼ばれるインプラントを、定められた条件のもとで施術された結果を調査したものなのです。いまではブローネマルクシステムは40年以上の歴史を持つインプラントですが、すべての歯科医院がこのブローネマルクシステムを使っているわけではないのです。また、ブローネマルクインプラント自体も改良され進化し、この調査時に用いたものと全く同じインプラントシステムではないのです。

しかし、ブローネマルクシステム以外のインプラントでも長期的な臨床結果が発表され、高い成功率が示されています。実際に色々多くのインプラントシステムで、材質、デザイン、表面性状について議論されてきました。全てとは言えませんが、いくつかのインプラントシステムは信頼できると言えるのは事実です。結果として世界で多く使用されているインプラントシステムの中には、信頼のおける製品が存在していると言えると思います。

最近ではインプラントの性能の向上が語られ、よいインプラントシステムが存在しているが、それを扱う歯科医師のトレーニング、技術についてあまり語られなかったのではないかという意見を耳にすることが多くなっています。私達がインプラント治療の教育を受けた頃は、確かに歯科医師のトレーニング、技術についてあまり語られていませんでした。

それはその当時、けっして「誰がやってもうまくいきますよ」といわれたわけでもなく、その前提として、インプラント治療に携わる以上は、自ら進んで相応の知識を得、技術を研鑽するのは当たり前という考えがあったからです。(20年も前の話ですが)ところが21世紀を迎え、発表されるインプラント治療の情報のほとんどが高い成功率を示していたために、最近は残念なことですがインプラント開発メーカー自体が、販売(セールス)に重きを置いているためか、風潮として「インプラントのシステム自体はすでに確立されたものであり、誰がやってもうまくいく」とでもいっているかのように思えるのです。

以前ならば、歯周外科や高度な抜歯など外科手術の経験を充分積んで、インプラント治療を始めるのが当たり前であってのですが、現在では、卒業2年目で親知らずの抜歯もまともにできない未熟と思える歯科医がやり始めるそうです。この裏側には「インプラントシステムはいくつかの優れたものが存在しているが、近年それを使う歯科医師の技術にばらつきが多く存在してしまっているようである。」ということが示唆されているのではないでしょうか。

結論として、「インプラントの成功率90%というのは本当でしょうか?」というご質問に対してわれわれ医療従事者は、「定められた条件(プロトコール)をまもり、知識、技術、経験のある術者が行った場合、ブローネマルクシステムをはじめとして、いくつかのインプラントシステムが、高い成功率を示す。」と答えるのが真実でしょう。